ABM(アカウントベースドマーケティング)とは BtoB企業の実践手順
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ABM(アカウントベースドマーケティング)とは BtoB企業の実践手順

執筆: ローカルマーケティングパートナーズ 編集部

監修: 山本 貴大

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「リード数は増えているのに受注が伸びない」「商談の質がばらばらで予測が立てにくい」。BtoBマーケティングでこうした課題を抱える企業は少なくありません。リードジェネレーションで母数を増やしても、そこから商談化・受注に至るのはごく一部であり、大量のリードを追いかけるコストが膨らむ一方で成果が見合わない状態に陥りがちです。

ABM(アカウントベースドマーケティング)は、この問題に対する構造的な解決策です。特定のアカウント(企業)を最初から狙いを定め、そのアカウントに関わる全意思決定者に対して一貫した体験を届けます。広くリードを集めてから絞り込む従来のリードジェネレーションとは発想が逆であり、営業効率と商談の質を同時に改善できるアプローチとして、エンタープライズ営業を中心に採用が広がっています。

ABMが向いているケース・向いていないケース

ABMは万能ではありません。自社の商材・市場特性に適しているかを先に確認する必要があります。

ABMが向いているケース

  • 受注単価が500万円以上のエンタープライズ向け商材
  • 1つの商談に複数の意思決定者が関わる(購買委員会型の意思決定)
  • 年間の新規受注目標が50件以下で、特定業種・規模への集中が合理的
  • 既存顧客のアップセル・クロスセルを強化したい
  • 営業サイクルが3か月以上かかる長期検討型の商材

ABMが向いていないケース

  • 受注単価が低く、大量のリードが必要なSMB向けSaaS(月額1〜3万円帯など)
  • 市場が広大で、特定アカウントへの集中が機会損失になる
  • マーケティング部門と営業部門の連携体制がまったくない状態

ABMが向いていない条件のうち、最後の「連携体制がない」は改善可能です。ABMを導入すること自体がマーケと営業の連携を強制する仕組みになるため、組織間の壁を壊すきっかけとしてABMを使うケースもあります。

ABMの3つのタイプと使い分け

ABMは規模とアプローチの粒度によって3つに分類されます。

タイプ対象アカウント数アプローチ典型的なコスト感
1:1 ABM(Strategic)最重要アカウント5〜10社完全カスタムのコンテンツ・施策1アカウントあたり数十〜数百万円
1:Few ABM(Lite)数十社の優先アカウントセグメント単位でカスタマイズ中コスト
1:Many ABM(Programmatic)数百〜数千社業種・規模でパーソナライズ低コスト、スケーラブル

多くのBtoB企業が最初に取り組みやすいのは1:Few ABMです。ターゲットアカウントを20〜50社に絞り、業種・課題感ごとにカスタマイズしたコンテンツを届けます。1:1ほどコストがかからず、1:Manyほど汎用的にならないため、投資対効果のバランスに優れています。

1:1 ABMはエンタープライズ営業で受注単価が数千万円以上の場合に検討します。1社に対して専用のランディングページや個別レポートを用意するため、コストは大きいものの受注時のリターンもそれに見合います。

ABM実践の手順

ICPの定義(理想顧客プロフィール)

ABMはICPの明確化から始まります。ICPとは「自社の商材が最も価値を発揮できる顧客の特徴」であり、ターゲットアカウント選定の判断基準になるものです。

  • 業種・業態(製造業、IT、金融など)
  • 従業員規模・売上規模(100〜500名規模、年商50億円以上など)
  • 意思決定者の役職構成(CMO直下、事業部長が起案者になるなど)
  • 導入済みのシステム(Salesforce利用企業、MA未導入企業など)
  • 成長フェーズ(IPO準備中、M&A後の統合期など)
  • 過去の失注・解約パターン(ICPの裏返しとして活用)

ICPの精度を上げる最も確実な方法は、過去の受注データの分析です。「成約率が高くLTVが高い顧客」の共通項からICPを逆算するアプローチが、仮説ベースのICP設定より精度が高くなります。CRMに蓄積された商談データから「受注した案件の共通属性」を抽出し、それをICPのたたき台にします。

ターゲットアカウントリストの作成

  • CRMの既存データ(過去の商談・問い合わせ履歴から候補を抽出)
  • LinkedInのSales Navigator(業種・規模・役職でフィルタリング)
  • 企業データベース(帝国データバンク、ユーザーベースなど)
  • 業界メディア・展示会の出展企業リスト
  • 既存顧客からの紹介・口コミ

初期フェーズでは営業チームとのすり合わせが必須です。「マーケが選んだアカウントに営業が動かない」状態はABMの致命的な失敗パターンであり、営業がすでに関係を持っているアカウントや、営業が「ここは取りたい」と考えているアカウントを優先的にリストに入れることで、実行フェーズでの温度差を防げます。

ターゲットアカウントの数は、初期は10〜30社に絞るのが現実的です。営業1名あたり15〜20社が運用上の限界であり、それ以上に広げると各アカウントへのアプローチが薄くなります。

アカウント別インサイトの収集

選定したアカウントについて、以下の情報を個別に収集します。

  • 組織構造と意思決定者の特定 — LinkedIn、企業ホームページ、採用情報から組織図を推測する
  • 現在の課題感 — プレスリリース、IR情報、経営者のSNS発言、業界ニュースからヒントを得る
  • 競合との取引状況 — 可能な範囲で調査。導入事例やイベント登壇情報が手がかりになる
  • 自社サービスとの接点の有無 — Webサイト訪問、過去の問い合わせ、セミナー参加履歴をCRMから確認する
  • テクノロジースタック — 利用しているツール(MA、CRM、BIツールなど)から導入障壁を推測する

この情報収集はアカウントごとに30分〜1時間かかるため、全アカウントを一度に調査しようとせず、優先度の高い上位10社から着手してください。

コンテンツとメッセージングの設計

ABMのコンテンツは「そのアカウントのために作られた」と感じてもらえる粒度が求められます。

コンテンツタイプ用途ABMでの活用方法
業種特化の事例紹介WARMリードの育成アカウントと同業種の事例を優先配信
ROI試算レポートHOTリードの後押しアカウントの規模に合わせた試算を提示
課題別ホワイトペーパー関心の喚起アカウントが抱える課題に直接回答する内容
パーソナライズドLP初回接触アカウント名・業種に合わせたページ
エグゼクティブ向けレター意思決定者へのアプローチ経営課題に紐づけたメッセージ

1:1 ABMではアカウント専用のランディングページやレポートを用意します。1:Few ABMでは業種セグメント単位でコンテンツを用意し、アカウント名を差し込む程度のパーソナライズで十分な効果が得られます。

重要なのは、コンテンツを「マーケ部門だけで作らない」ことです。営業担当が持つアカウントの情報(過去の商談で聞いた課題、キーパーソンの関心事)をコンテンツに反映することで、的外れなメッセージを避けられます。

多チャネルでのタッチポイント設計

ABMは単一チャネルではなく、複数のタッチポイントを組み合わせてアカウントの複数の意思決定者にリーチします。

チャネル特徴コスト感
LinkedIn広告(企業名・役職ターゲティング)意思決定者への精密なリーチCPC 500〜2,000円
IP広告ターゲティングアカウントのオフィスIPに広告配信月額数十万円〜
パーソナライズドメールシーケンス段階的な情報提供MAツール費用のみ
インサイドセールスの架電・メール直接的な対話人件費
招待制ウェビナー・エグゼクティブイベント深い関係構築企画・運営費
ダイレクトメール(物理)デジタルでは届かない層への接触1通1,000〜5,000円

チャネルの選定はアカウントの意思決定者がどこに時間を使っているかによって変わります。経営層にはLinkedInとエグゼクティブイベント、現場担当者にはメールシーケンスとウェビナーが有効な傾向があります。

セミナーやウェビナーをABMのタッチポイントとして活用する方法についてはBtoBセミナーの集客施策と参加率を上げる工夫も参考にしてください。

営業との連携プロセスの設計

ABMの最大の失敗要因は「マーケと営業が別々に動いている」ことです。ABMでは両チームが同じアカウントリストを見て、同じ目標に向かって動く体制が前提になります。

連携を機能させるために設計すべきプロセスは3つあります。

  1. アカウントのエンゲージメント情報の共有 — Webサイト訪問・コンテンツダウンロード・メール開封などの行動データを営業にリアルタイムで共有します。CRMのアカウントスコアとして可視化するのが理想です
  2. アプローチのタイミング合意 — 一定のエンゲージメントスコアを超えたらインサイドセールスがアウトリーチするフローをあらかじめ定義します
  3. フィードバックループ — 営業がアカウントとの商談で得た情報をマーケに還元し、コンテンツやメッセージングの改善に活かします。月1回のABMレビュー会議が有効です

リードの引き渡し基準の設計についてはBtoBマーケティングの基本と実践、リードスコアリングの考え方はリードスコアリングの設計と運用で詳しく解説しています。

効果測定のKPIと評価方法

ABMは「リード数」ではなく「アカウント単位の進行状況」で測定します。従来のリードジェネレーションとは評価軸が異なる点に注意が必要です。

KPI説明測定方法
アカウントエンゲージメント率ターゲットアカウントのWebサイト訪問・コンテンツ接触の割合MAツールのアカウントスコア
パイプラインカバレッジターゲットアカウントの商談化率CRMの商談ステータス
Deal Velocityターゲットアカウントの商談サイクル日数商談開始〜受注の日数計測
ACV(年間契約額)ターゲットアカウントの受注単価CRMの受注データ
ROIABM投資額に対する受注額の比率(受注額 − ABM費用)÷ ABM費用

ABMの効果を正確に測定するには、ABMを実施したアカウントとそうでないアカウントを比較する方法(A/B比較)が有効です。同じICPに合致するアカウントをABM対象群と非対象群に分け、商談化率・受注率・Deal Velocityの差分を確認します。

初期は数値が安定しないため、最低6か月は運用して傾向を把握してください。四半期ごとにレビューし、ターゲットアカウントリストの入れ替え・施策の調整を行うサイクルが推奨されます。

ABMでよくある失敗パターンと対策

ABMは正しく設計すれば効果が出るアプローチですが、典型的な失敗パターンがあります。導入前に把握しておくことで、同じ失敗を避けられます。

失敗1:ターゲットアカウントを広げすぎる

「たくさんのアカウントに対して施策を展開しよう」という発想からリストを100社以上に設定し、結果として各アカウントへのアクションが薄くなります。ABMの強みは特定アカウントへの集中投資にあり、リスト拡大はその強みを消してしまいます。初期は20〜30社に厳選し、まず勝ちパターンを見つけることが優先です。

失敗2:マーケと営業がリストを共有していない

マーケが独自にアカウントリストを作り、営業は別の商談リストで動いている状態。これはABMではなく「マーケが一人でやっているターゲティング施策」にすぎません。ABMの本質は両チームが同じアカウントを見ながら役割分担することにあります。リスト作成の段階から営業を巻き込む必要があります。

失敗3:コンテンツが一般的すぎる

「業種特化コンテンツを作った」といっても、「製造業向け」という粒度では不十分です。「製造業 × 従業員500名以上 × 海外拠点ありの企業の調達部長が抱える課題」まで絞れてはじめてABMのコンテンツになります。コンテンツの粒度が粗いと、届けたとしても「これは自分に関係ある」と感じてもらえません。

失敗4:短期で成果を求めすぎる

ABMの商談化サイクルは通常の施策より長くなります。エンタープライズ案件では最初の接触から商談化まで3〜6か月かかることも珍しくありません。導入後の最初の3か月は「アカウントエンゲージメントの向上」を中間KPIに据え、商談数だけで評価しないことが重要です。

ABMに使えるツールの選び方

ABMの規模と予算に応じてツールを選びます。高額なABMプラットフォームが必要なのは大企業のエンタープライズ向けであり、多くのBtoB企業では段階的な投資で十分です。

フェーズ別のツール構成

フェーズ必要ツール月額コスト目安向いているケース
手動ABM(スタート)CRM(HubSpot/Salesforce)+ LinkedIn無料版数万円/月ターゲット20〜30社、営業1〜2名
半自動ABMMA(HubSpot Marketing Hub等)+ LinkedIn Sales Navigator10〜30万円/月ターゲット50〜100社、メールシーケンス自動化
本格ABMプラットフォームDemandbase / 6sense / Terminus50万円〜/月ターゲット数百社以上、IP広告ターゲティングが必要

HubSpotはCRM・MA・ABM機能を一体で提供しており、中規模のABMには最もコスト効率が高い選択肢の一つです。SalesforceはCRMとしての実績が厚く、Pardot(Account Engagement)とのセットでエンタープライズABMを組む企業も多くあります。

ツールより先に体制を整える

どのツールを使うかより、「マーケと営業が週1回アカウントの状況を共有できる体制があるか」の方が重要です。ツールに頼りすぎると、会議や対話を省略したオートメーション頼みのABMになり、エンゲージメントの質が下がります。

ABMを始めるための最低限の準備

高額なABMプラットフォームを導入しなくても、以下の3つが揃えばABMは始められます。

  1. CRM(Salesforce、HubSpotなど) — アカウント情報と商談進捗を管理する基盤
  2. ターゲットアカウントリスト(20〜30社) — ICPに基づいて営業と共同で作成
  3. マーケと営業の定例ミーティング(月1回以上) — アカウントの進捗共有とアプローチ方針の合意

MAツールやABMプラットフォームは、手動運用で効果を確認してから導入を検討すれば十分です。小さく始めて、勝ちパターンを見つけてからスケールさせるのが現実的なアプローチです。

BtoBマーケティング全体の戦略設計についてはBtoBマーケティング戦略の立て方、リード獲得施策の全体像はBtoBリード獲得の施策一覧と優先順位の決め方も参照してください。

まとめ

ABMは「少数のアカウントに集中して営業効率と受注率を上げる」手法であり、リードの量ではなく質で勝負するBtoB企業に適しています。導入にあたってはICPの定義とターゲットアカウントの選定精度が成否を分け、運用フェーズではマーケと営業の連携体制が最も重要な変数になります。

10〜30社のターゲットリストを営業と共同で作成し、1:Few ABMから始めてみてください。高額なツールがなくてもCRMとLinkedInがあれば十分にスタートできます。


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よくある質問

Q. ABMとリードジェネレーションの違いは何ですか?

A. リードジェネレーションは広くリードを集めてから絞り込む手法。ABMは最初から狙うアカウントを決め、そのアカウントに特化した施策を集中投下する。高単価・長期検討のエンタープライズ営業に向いている。

Q. ABMを始めるのに必要なツールは何ですか?

A. 最低限CRMがあれば小規模なABMは始められる。MAツール(HubSpot・Marketo等)があると施策の自動化が可能。本格的なABMプラットフォーム(Demandbase・6senseなど)は年間数百万円以上かかるため、まずは手動で効果を確認してから導入を検討する。

Q. ABMのターゲットアカウントは何社選べばよい?

A. 初期は10〜30社に絞るのが現実的。広げすぎると各アカウントへの施策の手数が減り、ABMの強みである「ターゲット特化」が薄まる。営業1名あたり15〜20社が運用上の適正規模である。

Q. ABMは中小企業でも実施できますか?

A. できる。高額なABMプラットフォームを使わなくても、CRMとLinkedInの組み合わせで1:Few ABMは十分に運用可能。重要なのはツールではなく、ターゲットアカウントの選定精度と営業との連携体制である。

Author / Supervisor

山本 貴大

監修

山本 貴大

代表取締役 / 株式会社ローカルマーケティングパートナーズ

マーケティング支援の実務経験を活かし、BtoB/BtoCの戦略設計から施策実行まで150件超のプロジェクトを統括。地場の店舗ビジネスからスタートアップ、上場企業まで、現場に入り込んで再現性あるマーケティングを構築する。セミナー支援では企画・運営・登壇まで一気通貫で手がける。

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