SaaSの解約率を下げるために現場でやるべきこと
SaaSマーケティング

SaaSの解約率を下げるために現場でやるべきこと

執筆: ローカルマーケティングパートナーズ 編集部

監修: 山本 貴大

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SaaS事業において、チャーンレート(解約率)の高さは売上成長を直接蝕む構造的な課題です。新規獲得に投下したCAC(顧客獲得コスト)を回収する前に解約されれば、事業は成長どころか縮小に向かいます。

月次チャーンレートがわずか1%違うだけで、年間の収益インパクトは大きく変わります。月次1%のチャーンなら年間で約11.4%の顧客が離脱しますが、月次2%になると年間で約21.5%が失われる計算です。ARR(年間経常収益)が3億円の事業であれば、その差は約3,000万円に相当します。

本稿では、チャーンレートの定義と計算方法から、解約要因の分析、オンボーディング設計、ヘルススコア運用、CS体制構築、プロダクト改善、契約更新プロセス、KPI設計まで、チャーン改善に必要な実務施策を一通り整理します。

チャーンレートがSaaS事業のARR成長に与えるインパクトの構造図

チャーンレートの定義と計算方法

要点: グロスチャーン(顧客数ベース)とレベニューチャーン(収益ベース)を区別して計測し、改善施策の優先度を判断する。

グロスチャーンとネットチャーンの違い

チャーンレートと一口に言っても、「何を」「どの期間で」計測するかによって意味合いが変わります。まず押さえるべきは、グロスチャーンレートとネットチャーンレートの区別です。

指標計算式意味活用場面
グロスチャーンレート(顧客数ベース)当月解約顧客数 / 前月末顧客数純粋な解約の発生率解約防止施策の効果測定
グロスチャーンレート(収益ベース)当月解約MRR / 前月末MRR解約による収益損失率収益インパクトの把握
ネットチャーンレート(収益ベース)(解約MRR + ダウングレードMRR - アップセルMRR) / 前月末MRR既存顧客収益の純変動率事業全体の健全性判断

グロスチャーンレートは解約の実態を正確に反映しますが、ネットチャーンレートはアップセルの効果を加味するため、事業の健全性を総合的に判断するにはネットチャーンの方が適しています。ネットチャーンがマイナス(ネガティブチャーン)になっている状態は、既存顧客からの収益が純増していることを意味し、SaaS事業が最も健全に成長している状態です。

チャーンレートが事業に与える長期インパクト

チャーンレートの影響は月次で見ると小さく感じますが、年単位で見ると複利的に効いてきます。ARR 3億円の事業で、チャーンレートの違いが3年後にどの程度の差を生むか試算します(新規獲得の増加率は年30%で一定と仮定)。

月次チャーンレート1年後のARR2年後のARR3年後のARR3年間の累計損失
0.5%3.7億円4.6億円5.7億円
1.0%3.5億円4.1億円4.9億円約0.8億円
2.0%3.1億円3.4億円3.7億円約2.0億円
3.0%2.8億円2.8億円2.8億円約2.9億円

月次チャーンが3%の事業は、いくら新規獲得を頑張ってもARRが横ばいに収束してしまいます。「穴の開いたバケツに水を注いでいる」状態であり、チャーン改善なしに成長は困難です。

計測期間と粒度の設計

チャーンレートの計測は月次が基本です。ただし、年間契約が主体のプロダクトでは月次の変動が小さくなりがちで、四半期単位で傾向を見る方が施策の効果を判断しやすい場合もあります。

契約形態推奨計測単位注意点
月額契約中心月次自然解約(カード期限切れ等)を意図的解約と分離する
年額契約中心月次 + 四半期更新月に解約が集中するため月次だけでは傾向が読みにくい
従量課金混在月次(MRRベース)利用量減少によるダウングレードをチャーンと区別する

計測を始める際のよくある失敗は、無料トライアルからの未転換を「チャーン」に含めてしまうことです。トライアルの転換率とチャーンレートは別の指標として管理するのが正確です。SaaSのKPIとユニットエコノミクスの全体像はSaaS KPIとユニットエコノミクスで体系的に整理しています。

解約要因の分類と分析手法

要点: 解約データをプロダクト要因・オンボーディング不足・競合乗り換え等に分類し、最大ボリュームの要因から対策する。

解約理由の構造的な分類

チャーンレートを下げるには、まず「なぜ解約されるのか」を構造的に把握する必要があります。解約理由は大きく4つのカテゴリに分類できます。

カテゴリ具体例対策の方向性コントロール可能性
プロダクト要因機能不足、UIの使いにくさ、バグ・障害プロダクト改善、ロードマップの共有高(自社で改善可能)
オンボーディング要因初期設定が完了しない、価値を実感する前に離脱オンボーディングプログラムの設計高(CS体制で改善可能)
サポート要因問い合わせ対応の遅さ、担当者の知識不足CS体制の強化、ナレッジベース整備高(体制強化で改善可能)
外部要因予算削減、組織変更、競合への乗り換え契約更新プロセスの設計、ROI可視化低〜中(影響を軽減する施策は可能)

解約理由をCRMに記録する際は、上記のカテゴリを選択式にしておくと集計がしやすくなります。自由記述だけだと分析に時間がかかり、属人的な解釈が入りやすくなります。

解約分析の実務手順

解約データの分析は、以下の手順で進めます。

  1. 過去6〜12か月の解約データをCRM/CSツールから抽出する
  2. 解約理由を上記4カテゴリに分類し、件数と解約MRRを集計する
  3. カテゴリごとの構成比を可視化し、最もインパクトの大きい要因を特定する
  4. 上位1〜2要因に対して具体的な改善施策を設計する
  5. 施策実行後、四半期ごとに構成比の変化を確認する

ありがちな失敗は、すべての要因に対して同時に施策を打とうとすることです。リソースが分散して、どの施策の効果も中途半端になります。最大ボリュームの要因にピンポイントで集中する方が、確実にチャーンレートの改善トレンドを作れます。

解約予兆の検知

解約は突然起きるわけではなく、多くの場合は数週間から数カ月前に予兆が現れます。以下のシグナルを定量的にモニタリングする仕組みを整えることが重要です。

  • ログイン頻度の低下(過去30日間で前月比50%以上の減少)
  • 主要機能の利用停止(コアバリューに直結する機能を2週間以上使っていない)
  • サポート問い合わせの急増(不満の蓄積を示唆)
  • NPS回答スコアの低下(直近のスコアが6以下)
  • 管理者アカウントの担当者変更(キーパーソンの異動・退職)

これらのシグナルを単体で見るのではなく、組み合わせてスコアリングするのがヘルススコアの考え方です。後述するヘルススコアの設計で詳しく触れます。

CRMやSFAの活用が進んでいる企業であれば、これらの指標をダッシュボードで自動表示し、CS担当者が毎朝チェックできる状態を作ることが理想です。

オンボーディング設計による初期離脱の防止

要点: 初期30日間でプロダクトの価値を実感させるTime to Valueの短縮が、最もインパクトの大きいチャーン改善施策。

最初の14日間がチャーンを決める

SaaSプロダクトにおいて、契約後最初の14日間は最もチャーンリスクが高い期間です。この期間にプロダクトの価値を実感できなかった顧客は、その後の利用が定着せず、早期解約に至る確率が大幅に上がります。

オンボーディングの目的は「機能の説明」ではなく「価値の体感」です。顧客が自社の業務課題に対してプロダクトが役立つと実感できる状態をいかに早く作るか。これがオンボーディング設計の核心です。

オンボーディングプログラムの設計フレーム

フェーズ期間ゴール主なアクション未達時のフォロー
Day 0-1契約直後アカウント設定の完了ウェルカムメール、初期設定ガイドの送付Day 2にリマインドメール送信
Day 2-3初回利用コアデータの投入キックオフミーティング、データ移行支援CSから電話フォロー
Day 4-7初期活用主要機能を1つ使いこなすハンズオンセッション、活用Tipsメール未利用機能のガイド動画送付
Day 8-14価値実感最初の成果指標を確認成果レビュー、追加機能の紹介CS担当が直接ヒアリング
Day 15-30活用定着週次の利用習慣が確立活用事例の共有、利用状況レポート送付再オンボーディングの提案

このフレームを基に、プロダクトの特性に合わせてカスタマイズします。重要なのは、各フェーズに明確なゴール(完了条件)を設定し、未達の場合にCS側でフォローが発動する仕組みを組み込むことです。

SaaSオンボーディングの4フェーズと各フェーズの完了条件

オンボーディング完了率の改善施策

オンボーディングの完了率は、チャーンレートに直結する先行指標です。完了率が低い場合に取り組むべき改善施策を優先度順に整理します。

改善施策期待効果実装コスト優先度
ウェルカムメールの即時自動送信初回ログイン率の向上最優先
プロダクト内のチュートリアル・チェックリスト初期設定完了率の向上
キックオフMTGの標準化(テンプレ・アジェンダ)初期活用率の向上
Day 7・Day 14の自動リマインドメール未完了顧客への再エンゲージ
活用事例コンテンツの充実利用イメージの具体化
セルフサーブの動画チュートリアルテックタッチ顧客のオンボーディング支援中〜高

オンボーディングの設計についてさらに詳しくはSaaSオンボーディング設計を参照してください。

テックタッチとハイタッチの使い分け

すべての顧客に対して個別のハンズオンセッションを提供するのは、CS人員の観点から現実的ではありません。顧客のARR規模に応じてタッチモデルを使い分けることが必要です。

タッチモデル対象オンボーディング手法CS工数オンボーディング完了率の目標
ハイタッチARR上位20%(エンタープライズ)専任CSによる個別プログラム95%以上
ロータッチARR中位50%グループセッション+メール85%以上
テックタッチARR下位30%(SMB)プロダクト内ガイド+自動メール75%以上

テックタッチでもオンボーディング完了率を80%以上に保つには、プロダクト内のチュートリアル設計が鍵になります。ツールチップやチェックリスト形式の進捗表示で、ユーザー自身がステップを進められるUIを用意します。

SaaS企業のインサイドセールスと同様に、限られたリソースをどこに集中するかの判断がオンボーディングでも問われます。

ヘルススコアの設計と運用

要点: ログイン頻度・主要機能利用・サポート問い合わせの3指標で簡易スコアを作り、解約予兆を検知する。

ヘルススコアの構成要素

ヘルススコアは、顧客がプロダクトを健全に利用しているかを数値で可視化する仕組みです。解約予兆の検知だけでなく、アップセルのタイミング判断にも使えます。

カテゴリ指標重みデータソース取得方法
プロダクト利用週次ログイン率20%プロダクトログAPI or CSVエクスポート
プロダクト利用コア機能の利用頻度20%プロダクトログAPI or CSVエクスポート
エンゲージメントサポート問い合わせ傾向15%ヘルプデスクZendesk等のレポート
エンゲージメントNPS/CSATスコア10%アンケート定期アンケートの結果
契約状況ライセンス利用率15%契約管理DBCRM連携
契約状況契約更新までの残月数10%CRMCRM連携
関係性キーパーソンとの接触頻度10%CS活動ログCS担当の記録

スコアは100点満点で設計し、各指標を0-100に正規化してから重み付け合算します。最初は5段階(A/B/C/D/E)程度に区分して運用すると、施策の出し分けがしやすくなります。

スコア別アクションの設計

ヘルススコアは計測するだけでは意味がありません。スコアの変動に応じた具体的なアクションを事前に定義し、CS担当者が迷わず動ける状態を作ることが重要です。

スコア帯状態自動アクションCS手動アクション対応期限の目安
80-100(A)健全活用事例取材の打診メールアップセル提案の準備四半期に1回の接点
60-79(B)良好活用Tipsコンテンツの配信四半期ビジネスレビューの実施月次の状況確認
40-59(C)注意再活性化キャンペーンの配信CSマネージャーが直接介入、課題ヒアリング1週間以内に初回接触
20-39(D)警戒マーケ配信の一時停止エスカレーション、経営層への報告3営業日以内に介入
0-19(E)危険全自動施策を停止緊急対応、解約防止プランの提示即日対応

カスタマーサクセスとマーケティングの連携の観点では、ヘルススコアの変動をトリガーにしたマーケ施策の自動配信が有効です。スコアがC以下に落ちた顧客にプロモーションメールを送り続けるのは逆効果なので、配信制御の仕組みも合わせて整備します。

ヘルススコアのスコア帯別アクション設計マップ

ヘルススコア運用の立ち上げステップ

ヘルススコアの運用を始める際は、最初から完璧なモデルを目指さないことが重要です。段階的に精度を高めていく前提で始めます。

ステップ期間作業内容ツール
Step 11〜2週間ログイン頻度・コア機能利用・問い合わせ数の3指標でスコアを作成スプレッドシート
Step 21か月過去の解約データと照合し、スコアの閾値を調整スプレッドシート
Step 32〜3か月スコア別アクションを定義し、CS業務に組み込むスプレッドシート + CRM
Step 43〜6か月指標の追加(NPS、ライセンス利用率等)、重みの最適化CS専用ツール検討
Step 56か月以降GainsightやHiCustomer等の専用ツールへ移行専用CSツール

CS(カスタマーサクセス)体制の構築

要点: CS専任1名から立ち上げ可能。担当顧客数50社超で2人目を検討するのが一般的な目安。

CS組織の立ち上げステップ

CS組織の構築は、専任担当者1名の配置から始まります。ARR規模と顧客数に応じて段階的に拡充していくのが現実的な進め方です。

フェーズARR目安顧客数目安体制主な業務月額人件費目安
Phase 15,000万円未満30社以下兼任1名オンボーディング、問い合わせ対応30〜50万円
Phase 25,000万-2億円30-100社専任1-2名ヘルスチェック、定例MTG運用80〜150万円
Phase 32-5億円100-300社3-5名(マネージャー含む)タッチモデル分化、ヘルススコア運用250〜450万円
Phase 45億円以上300社以上5名以上+OpsCS Ops、テックタッチ自動化500万円以上

Phase 1の段階では、セールスやサポートとの兼務でも構いません。ただし、オンボーディング完了率と解約理由の記録だけは最初から仕組みとして整えておきます。この初期データが、後のCS組織拡充の判断材料になります。

CS担当者の評価指標

CS担当者のパフォーマンスを測る評価指標を設計しておくことで、チーム全体のチャーン改善意識を高められます。

評価指標計算方法目標水準の目安
担当顧客のチャーンレート担当顧客の解約数 / 担当顧客数月次1.0%以下
オンボーディング完了率完了顧客数 / 新規アサイン顧客数85%以上
ネットリテンション率既存顧客の当月MRR / 前月MRR100%以上
ヘルススコアC以下の顧客比率C以下の顧客数 / 担当顧客数15%以下
顧客満足度(CSAT)アンケートスコアの平均4.0/5.0以上

CSと他部門の連携ポイント

CS部門は単独で機能する組織ではなく、セールス・マーケティング・プロダクトの各部門と密接に連携して初めて効果を発揮します。

セールスとの連携では、商談時の期待値とオンボーディング後の実態にギャップがないかを定期的にすり合わせます。「セールスが過大な期待を持たせて受注し、CSがその期待に応えられずにチャーンする」というパターンは非常に多く、組織横断で対処すべき課題です。

マーケティングとの連携では、解約理由のデータをコンテンツ企画にフィードバックするルートを設けます。リードナーチャリングの段階で適切な期待値を形成できれば、契約後のギャップは小さくなります。

CS組織のさらに詳しい設計についてはSaaS CS組織の設計で解説しています。

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プロダクト改善とフィードバックループ

要点: 解約理由をプロダクトチームに定期フィードバックし、解約要因の根本解消を仕組み化する。

CS起点のプロダクトフィードバック

チャーンレートの改善施策としてCS体制やオンボーディングの強化は即効性がありますが、根本的な解決にはプロダクトそのものの改善が不可欠です。CSチームが日々受け取る顧客の声を、プロダクトチームに構造的にフィードバックする仕組みが必要です。

フィードバックを「要望」「不具合」「使いにくさ」「機能不足」に分類し、各項目に対して「言及した顧客数」と「その顧客のARR合計」を付与して優先度を判断します。顧客数が多い要望だけでなく、ARRインパクトの大きい要望にも目を向けることで、収益に直結するプロダクト改善ができます。

フィードバックループの運用フロー

ステップ担当アクション頻度アウトプット
収集CSサポート問い合わせ・定例MTGからのフィードバック記録随時フィードバックログ
分類・集約CS Opsカテゴリ分類、顧客数・ARRの集計週次集約レポート
優先度判断プロダクト+CSインパクトと実装コストのマトリクスで評価月次優先度付きバックログ
ロードマップ反映プロダクト開発計画への組み込み四半期更新されたロードマップ
顧客への共有CS改善予定のフィードバック、リリース通知随時個別連絡+リリースノート

このループで見落としがちなのが、最後の「顧客への共有」です。要望を出した顧客に対して「ご要望を受けて改善しました」と個別に伝えることで、顧客は「自分の声が反映された」と感じ、プロダクトへのロイヤルティが高まります。

SaaS企業のマーケティング立ち上げの段階からフィードバックループの仕組みを意識しておくと、プロダクトとマーケの連携がスムーズになります。

契約更新プロセスの設計

要点: 更新の90日前からアプローチを開始し、利用状況レビューと価値の再確認を行うプロセスを標準化する。

更新の成否は90日前に決まる

年額契約のSaaSにおいて、契約更新の交渉を更新月の直前から始めるのは遅すぎます。更新の成否を左右するのは、更新90日前からの準備です。

タイミングアクション目的担当
更新90日前ヘルススコアの確認、リスク評価更新リスクの早期把握CS担当
更新60日前ビジネスレビューの実施導入効果の可視化、課題の洗い出しCS担当+CSマネージャー
更新45日前更新条件の内部調整プラン変更・値引きの判断CSマネージャー+営業
更新30日前更新提案の送付正式な更新手続きの開始CS担当
更新14日前フォローアップ未回答への追跡、最終交渉CS担当+営業

ビジネスレビューの設計

更新60日前に実施するビジネスレビューは、チャーン防止の最重要施策の一つです。ビジネスレビューでは、以下の内容をレポートにまとめて顧客に提示します。

  • 導入時に設定したKPIに対する達成状況
  • プロダクトの利用状況サマリー(ログイン数、機能利用率など)
  • CS側で把握している課題と改善提案
  • 今後のロードマップから顧客に関係する機能アップデート

このレポートの品質が、更新の意思決定に大きな影響を与えます。「なんとなく使い続けている」状態から「明確な成果が出ている」と顧客自身が認識を改めるきっかけになるからです。

解約申し出時の対応フロー

解約の申し出があった場合にも、適切な対応で一定割合の解約を防止できます。

対応ステップアクションポイント
ヒアリング解約理由を丁寧に聞き取る表面的な理由の裏にある本質的な不満を探る
代替提案プラン変更・機能追加・期間延長等の提案顧客の課題に直結する具体的な改善策を提示
エスカレーション必要に応じてマネージャーや経営層が対応ハイタッチ顧客には特別対応の余地を持つ
解約受理引き留めが難しい場合は円満な解約対応再契約の可能性を残す。解約理由を詳細に記録

すべての解約を防止しようとする必要はありません。外部要因(予算削減、組織変更)による解約は無理に引き留めるとブランドイメージを損なうリスクがあります。防止施策の対象は、プロダクト要因・オンボーディング要因・サポート要因に限定するのが合理的です。

契約更新プロセスの90日前からのタイムライン

チャーンレート改善のKPI設計と目標水準

要点: 月次グロスチャーン1.0%以下(SMB)、0.5%以下(エンタープライズ)が一般的なベンチマーク。

KPIツリーの構築

チャーンレートの改善を「気合いで頑張る」のではなく、構造的に推進するにはKPIツリーの設計が必要です。最上位KPIであるチャーンレートを因数分解し、各施策がどの中間指標に効くのかを明確にします。

階層KPI目標例関連施策
最上位月次グロスチャーンレート1.0%以下---
中間オンボーディング完了率85%以上オンボーディングプログラム
中間ヘルススコアC以下の顧客比率15%以下ヘルススコア運用、CS介入
中間契約更新率90%以上更新プロセスの設計
詳細初回ログインまでの日数契約後2日以内ウェルカムメール、初期設定ガイド
詳細NPS40以上プロダクト改善、CS対応品質
詳細サポート初回応答時間4時間以内サポート体制の強化

ベンチマークと現実的な目標設定

チャーンレートの目標設定には、業界のベンチマークを参考にしつつ、自社の現状からの改善幅で考えるのが現実的です。

セグメント月次グロスチャーンレート(目安)年次換算ネットリテンション率の目安
エンタープライズ(ACV 500万円以上)0.3-0.5%3.5-5.9%110-130%
ミッドマーケット(ACV 100-500万円)0.5-1.0%5.9-11.4%105-115%
SMB(ACV 100万円未満)1.0-2.0%11.4-21.5%95-105%

現在のチャーンレートが月次3%であれば、いきなり1%を目指すのではなく、四半期ごとに0.3-0.5ポイントの改善を積み重ねる計画が現実的です。短期間で劇的に改善することは稀であり、施策の効果が数値に現れるまでには通常2-3カ月のタイムラグがあります。

マーケティングKPIの設計と同様に、チャーンレート改善のKPIも「計測可能」「施策と紐づく」「担当者が明確」の3条件を満たすように設計します。NRR(ネットレベニューリテンション)の向上策についてはSaaS NRR改善とエクスパンション戦略も参考にしてください。

まとめ

チャーンレートの改善は、単一の施策で実現するものではありません。解約要因の把握、オンボーディング設計、ヘルススコア運用、CS体制構築、プロダクト改善、契約更新プロセス、KPI設計。これらの施策を組み合わせて、構造的にチャーンを抑え込む仕組みを作ることが重要です。

優先順位としては、まず解約理由の定量的な把握から着手し、最もインパクトの大きい要因に対してピンポイントで施策を打つのが効率的です。その上で、オンボーディングの仕組み化とヘルススコアの導入を進め、CS体制を段階的に拡充していきます。解約予測の精度を高めるためのデータ活用についてはSaaS解約予測の実践ガイド、チャーンを抑えながらMRRを伸ばすリード獲得の考え方はSaaSリード獲得を3倍にする施策設計も合わせて参考にしてください。

チャーンレートの改善は、新規獲得に比べて地味に見える取り組みですが、SaaS事業の持続的な成長にとっては最もレバレッジの効く投資です。月次チャーンレートを0.5ポイント改善するだけで、3年後のARRは大きく変わります。短期の数字に一喜一憂せず、四半期単位で改善トレンドを追い続けることが、チャーン改善の実務における最も重要な心構えです。

よくある質問

Q. チャーンレートの改善施策はどこから着手すべき?

A. まず解約理由の分類と定量把握から始めるのが鉄則です。CRMやCSツールに蓄積された解約データを、プロダクト要因・オンボーディング不足・競合乗り換え・予算縮小などに分類し、件数と収益インパクトを可視化します。最もボリュームの大きい要因に対してピンポイントで施策を打つ方が、全方位的に手を広げるよりも早く成果が出ます。

Q. ヘルススコアはどのツールで運用すればよい?

A. 初期段階であればスプレッドシートで十分です。ログイン頻度・主要機能の利用回数・サポート問い合わせ数の3指標を週次でCSVエクスポートし、加重平均でスコアリングするだけでも判断材料として機能します。運用が定着してからGainsightやHiCustomerなどの専用ツールに移行するのが現実的な進め方です。

Q. カスタマーサクセスチームは何名から立ち上げるべき?

A. 専任1名からでも立ち上げは可能です。ARRが1億円未満のフェーズでは、CS専任者1名がオンボーディングとヘルスチェックを兼務し、マーケやセールスと週次で情報共有する体制で回せます。担当顧客数が50社を超えてきたタイミングで2人目を検討するのが一般的な目安です。

Q. チャーンレートの目標値はどのくらいが適切?

A. 月次グロスチャーンレートで1.0%以下がSaaS業界の一般的なベンチマーク(SMB向けプロダクトの場合)です。エンタープライズ向けであれば0.5%以下が目安になります。ただし業界やプロダクト特性によって異なるため、自社の過去推移と比較して改善トレンドが出ているかを重視する方が実務的です。

Author / Supervisor

山本 貴大

監修

山本 貴大

代表取締役 / 株式会社ローカルマーケティングパートナーズ

マーケティング支援の実務経験を活かし、BtoB/BtoCの戦略設計から施策実行まで150件超のプロジェクトを統括。地場の店舗ビジネスからスタートアップ、上場企業まで、現場に入り込んで再現性あるマーケティングを構築する。セミナー支援では企画・運営・登壇まで一気通貫で手がける。

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